| おあいこ。 〜前編〜 |
あの人にデートに誘われた。 いや、厳密に言うと・・・『買い物のお供』というヤツで・・・。 でも、もしかしたら『デート』なのかも。 あー、いやいや、そんな勝手な思い込みは・・・もしそうじゃなかった場合、惨めになるだけだし。 それ以前に、『そういう関係』を意識して・・・ドキドキして・・・舞い上がって・・・空回りして・・・ ヘンなトコばっかり見せてしまうっていうのも、これまた悲しい。 でも、こうやって待っている間にも、『二人きりで会える』という喜びの気持ちが心を高鳴らせていた。 「はぁ〜・・・口から心臓が飛び出てきちゃいそうだよ〜」 思わずぼくは呟いてしまう。 約束の時間にはまだ若干余裕があるけど、ぼくの方はすでに全然余裕がなかった。 「何が飛び出てきちゃうの?」 背後からそんなセリフが飛び込んできた。 待ちに待った、聞き慣れた・・・声? はっ!と、声のする方へ振り向くと、そこには・・・ 「うわっ!! ラチェットさんっ!?」 彼女がそこに来ていた。 って・・・え!? ラチェットさん・・・なんか違う! いつもと違う! 全然違う! 「ゴメンなさい、仕度に手間取っちゃって・・・大河・・・くん?」 いつも煌びやかなロングのブロンドが、今日は後ろで1つに束ねられていて。 服も・・・いつものキリッとしたスーツではなく、もっとラフな・・・より親しみやすい感じだった。 ぼくは動揺を隠し切れず、目をぱちぱちさせて彼女のその素敵な姿に見入るしかなかった。 「あ・・・子供っぽい・・・かなぁ?」 ぼくがあまりにも間抜けな姿で見入っているものだから、彼女は申し訳無さそうに苦笑いしてそう呟いた。 『・・・かなぁ?』 普段の姿と違うというのもあるけど、言動までもが違って見える。 言葉で言い表すとすれば・・・ 「かっ・・・可愛い・・・」 そう、まさしく『可愛い』といった感じ。 って、あれ? ・・・今、誰が言ったの? 『可愛い』って・・・ 「あ・・・うん、ありがとう・・・お世辞でも嬉しい・・・」 照れくさそうに俯いて、彼女はそう答えた。 も、もしかして・・・この口が・・・このぼくの口が言ってしまったの? 『可愛い』と、思わず本音が? うあぁぁぁ!! 恥ずかしいっ!! 恥ずかしすぎるっ!! とっさに背を向けて、ぼくは紅潮する自分の顔を手で覆った。 「・・・大河くん、どうして・・・面と向かってそんな事を言われて、恥ずかしいのは私の方なのに・・・」 「本音が思わず出ちゃって、ぼくだって恥ずかしいんですもん! ぅきゅ〜・・・」 「あ・・・でも、大河くんにそう言ってもらえて、すごく嬉しくて、私もドキドキしてるから・・・おあいこ。ね?」 そう言って彼女は顔を覆っていたぼくの手を取り、向き直した。 「お、おあいこって・・・どう見てもラチェットさんの方が余裕あるじゃないですかぁ!」 「ふふっ・・・そんなことないわ。ほら、時間がもったいないから、ね、行きましょ?」 ダ、ダメだ・・・。 完璧に舞い上がって空回りしてしまっている・・・。 『おあいこ』なんて言いつつも、ラチェットさんにリードされてるのはいつもと変わらずで。 今だってホラ・・・これじゃまるでお姉さんと弟みたいじゃないか・・・手を繋いで歩いて・・・ 手を繋いで!? 「ラ、ラ、ラチェットさんっ! て、て、手が・・・」 ぼくの手を引いて一歩前を歩いていた彼女が、とっさに立ち止まって慌ててその手を離した。 そして、今にも泣き出してしまうんじゃないかと思うくらい顔を真っ赤にして、彼女は口を開く。 「ご、ごめんなさい・・・その・・・い、痛かった?」 「あの・・・別に・・・そんなことは・・・ないんですけど・・・」 「ダ、ダメね・・・私、完璧に舞い上がっちゃってる・・・はぁ・・・」 意外や意外。 あのラチェットさんが取り乱している・・・しかもぼくの前で。 ドキドキして舞い上がって空回りしてるのがぼくだけじゃないと思ったら、なんだか妙に嬉しくなっちゃって。 思わず笑ってしまうと、彼女は顔を赤らめたままちょっとむくれた。 「え、なんでそんな嬉しそうな顔するの? なんか、大河くんズルい・・・」 「ズルくないですよー! ドキドキして舞い上がっちゃうのは『おあいこ』ですもん」 「うん・・・だから、最初から『おあいこ』だって・・・言ってるのに・・・」 「そうですね、『おあいこ』です! それじゃ、気を取り直して・・・お買い物、しましょう?」 ラチェットさん・・・これはもう、『デート』だって思い込んでしまっても良いですよね? そうして今度はぼくの方から手を差し出すと、彼女は安心したように優しく微笑んで、ふわりと手を重ねた... |