| おあいこ。 〜後編〜 |
たくさんの店が立ち並ぶ街路を歩いている。 あなたと私、ふたり並んで。 そして・・・手を繋いで。 なんだか最初からドキドキして舞い上がって空回りして、互いに恥ずかしい思いをしていた私たちだったけれど、 それでも、『あなただけには、感情を素直にさらけ出せる』ということに、少し心地良さを感じていた。 「それで・・・今日は何処か行きたいお店とか、何か買いたいモノとか、あるんですか?」 ふと、彼が問いかけてきた。 実は、一番聞かれるのが怖かった質問。 なぜなら・・・ 「ん・・・実はあまり考えてなかったの・・・」 「え? なんか、意外ですね。ラチェットさんてもっと・・・計画性のある人だと思ってたのになぁ・・・」 「そ、そんな・・・」 だってホラ、大きな声で『大河くんとデートしたい』だなんて・・・ 言えるわけ・・・無いじゃない・・・ 「もう・・・良いじゃない、たまにはウィンドウショッピングでも」 「良いですよ? 良いですけど・・・なんでぼくを誘ってくれたのかとか、聞きたいじゃないですかぁ・・・」 そう、行き着く先はここ。 どんなに言い訳しようとも、私が大河くんを誘ったのは事実。 理由だって・・・もう分かってるはずなのに・・・ 「だから・・・これ以上は聞かないで! もう・・・大河くんったら、意外といじわるなのね」 「え〜、そんなぁ。ヒドイなぁ〜もう・・・あはは・・・」 でも、こんな何気無い会話でも、幸せだと感じてしまう。 なんとなく・・・気持ちは通じ合ってるから。 しばらくこんな感じで歩いていると、ふと1件のお店が目に付いた。 あの名前は・・・確か以前プラムが話していたハンドメイドのお店だったかもしれない。 「ねぇ大河くん・・・あのお店、入ってみない? あなたに似合うものが何かあるかもしれないわよ?」 「え? ぼ、ぼく? ラチェットさんに見立ててもらえるんですか?」 ――― カランカラン・・・ ドアを開けると、上部に取り付けられていたベルが軽い音を立てて鳴る。 中へ入ると、外の雑踏がまるでウソのように、静かでゆったりとした時が流れていた。 「うわぁ・・・なんか・・・思った以上に落ち着く感じで・・・良いお店ですよね」 それほど広い店内ではなかったけれど、ちょっとした衣類や雑貨などが、どこから見ていけば良いのか迷うほどに 所狭しと飾り並べられている。 そんな中、やっとのことでひとつの棚が目に入った。 「あ! ・・・ねぇ、大河くんて寝る時はどんな格好なの?」 「ね、寝る時って・・・なんでそんなこと・・・唐突に・・・」 「ほら、このパジャマ・・・大河くんに似合いそう。うん、可愛い。こういうの、着てみない?」 そう言いながら、棚から手に取ったパジャマを広げて、彼の体に合わせてみる。 「パジャマ・・・は、着ないんですけど・・・まぁ、着ろと言われれば着ないこともないというか・・・」 「それじゃ、浴衣を着て寝るの? さすが日本人ね・・・あ、こっちは? んー、あっちよりこっちかしら」 会話を続けながら、いくつかのパジャマを広げては彼の体に当て、受ける印象を確かめた。 「いや、浴衣もちょっと・・・めくれるくらいなら、いっその事・・・」 「じゃあ、何を着てるの?」 「というか、何も・・・下はさすがにはいてますけど・・・」 「は・・・」 裸!? 大河くんが!? 信じられない・・・可愛いパジャマとか着て寝てるのかと思ったのに。 ・・・なんて、まぁ誰が何を着て(何も着ないで)寝てたって別に・・・ね、私がどうこう言うことではないんだけど。 少し意外だったので驚いてみたりして。 「そういうラチェットさんはどうなんですか? どんな格好で寝てるんですか?」 「・・・こういう流れでそういうことは・・・普通、聞かないと思うけど」 「あ、あはは・・・なんか勢いで聞いちゃいました」 「勢いでも聞いちゃダメなの、こういう話は特に・・・女性には」 苦笑いの彼。 もう・・・一歩間違えば笑い話じゃすまないようなコトも、平気で口にしてしまうんだから・・・。 まぁ、良い方向に考えるとすれば、『素直でまっすぐで曇りひとつ無い純粋な人』・・・と解釈できるんだけど。 「でも・・・先に話を振ったのは私の方だし、大河くん・・・ちょっと可愛そうだから教えてあげる」 「え?」 「でも、今はまだナイショ!」 「ナイショ・・・って、えぇ!?」 「だからって、ヘンな想像・・・しないでね?」 「えぇ!? ヘ、ヘンな想像って・・・」 と、その時、急に彼の表情が硬くなり、強い力でフィッティングルームに引き込まれた・・・ 「大河く・・・はンっ!?」 「しーっ! 喋らないで下さい」 私に声を出させまい・・・と、彼は私の口を手で塞ぐ。 こんな狭い中で、一体・・・何をするの!? ――― カランカラン・・・ フィッティングルームの中にいて店内の様子は把握できないが、あのベルの音が人が来店した事を告げた。 彼は、扉の隙間からそっと店内の様子を覗き見ている。 「どーも! この間お願いしてたアレ、届いたって連絡貰ったんだけど・・・」 「はい、プラムさんね。今持ってくるから少々お待ちを」 「ねえプラム、ちょっとだけ向こうの棚見てきて良いかなぁ?」 「あん、良いわよ。あたしも受け取ったらそっちに行くから」 あの声は・・・プラムと・・・杏里? もしかして・・・あの子たちと鉢合わせになるのを恐れてフィッティングルームに逃げ込んだの? 足音が少しずつこちらに近づいてくる・・・。 「あ・・・あれ? なんでこんなトコに靴が・・・片方だけ?」 し、しまった!! 慌てて隠れたから・・・靴が片方脱げて・・・ しかも、よりによって杏里に見つかってしまうなんて・・・ 「どうかしたの? 杏里」 「あ、あのね、試着室の前に女性物の靴が・・・片方・・・」 「ふぅん・・・ヘンね。でも、な〜んかドコかで見たことあるような気がするのよねぇ、そのクツ」 仕方が無い・・・こうなったら、言い訳をするために私だけでもココから出なければ・・・ そう思い、私の口を塞ぐ彼の手をゆっくりと払い除けた。 彼は「どうするの?」と言うような表情で私を見ていたが、「大丈夫、任せて」という意を込めて彼の肩を軽く叩き、 平然とした態度で表に出ようと立ち上がった・・・ が、それも叶わず・・・ 「痛っ!!」 「うわあっ!?」 私の髪が・・・彼のシャツのボタンに絡まって・・・ ドスンという大きな音を立てて、フィッティングルームの中で大きく倒れこんでしまった。 私も彼も思わず大きな声を立ててしまい、慌てて互いの口を手で塞ぎ合う。 「え、えぇっ!? な、なんか今、ものすごい音が聞こえたんだけど・・・」 「1人じゃぁ・・・ない感じよね? オトコとオンナの声がしたもの」 「えっ? えっ? えーっ? それじゃ、こんな狭い中で何やってるのォ!?」 「さぁ・・・出来る事といえば色々あると思うけど・・・例えばー・・・」 「わー、待って待って! もう良いよー言わなくても。恥ずかしいから早く帰ろ?」 「なんで杏里が恥ずかしがることあるのよぉ。 ンもう、しょうがないわねぇ。用も済んだし・・・行きますか」 「うんうん!」 ――― カランカラン・・・ そうしてまた、ドアのベルが軽い音を鳴らした。 店内は再び穏やかな時間を取り戻す。 もう・・・何がなんだか分からない状態で・・・私はため息をつく余裕さえも無かった。 「す、すみません・・・今、絡まっちゃったの外しますから・・・」 心成しかその声は震えていて。 それでも、ゆっくりと、ていねいに・・・彼は、絡まってしまっていた私の髪を綺麗に外してくれる。 真剣な眼差しで・・・。 「こんな綺麗な髪、切れちゃ勿体無いですもんね。・・・ラチェットさん、大丈夫ですか?」 「ふぅ・・・まぁ、なんとか・・・ね」 そうして、私はやっとの思いでひとつ大きく息を吐く。 「良かった・・・綺麗に取れた。すみませんでした・・・なんか、散々な目に遭わせてしまって・・・」 「脱げた靴は杏里に見つかってバレそうになるし・・・おまけに髪は絡まっちゃうし・・・ホント、災難」 「あぁもう、ごめんなさいっ! 雑用でもなんでもしますからぁ!!」 そう言って彼は手を合わせ、しきりに拝み倒してくる。 「もう、そんな大げさな。ちょっとしたハプニングじゃない・・・まぁ、少しは焦って寿命が縮まるかと思ったけど・・・」 「あぅ〜・・・」 彼は困った顔で、言葉にもならない情けない声を発する。 実は、彼のそんな顔を見られるのも・・・いつも内心楽しみだったりして。 自分に余裕のある時には、ちょっとからかってみたいと思うのが本音。 「ホラ、そんな顔しないで。立たせてくれない? これ以上こんな狭い中にいると、どうにかなっちゃいそう」 「えっ? えっ? えっ? そ、そんな、あの・・・えっと・・・」 私がそう言うと、彼は慌てて狭い中でのギリギリのところまで離れた。 そんなにとっさに飛び退くことないのに・・・残念。 「ふふっ・・・冗談よ。あ、そうだ・・・さっきのパジャマ、買って良いかしら?」 「で、でも・・・」 「だってさっき、大河くん・・・私に聞いたじゃない、『どんな格好で寝てるんですか?』って」 「聞きましたけど・・・え?」 「答えはあのパジャマ。私も今日からあのパジャマを着るから、大河くんも一緒に着てくれる? おそろいで」 「お、お、おそろい!? し、しかも、パジャマですかっ!? あひゃあ〜・・・」 ボフッと煙の出る音が聞こえてきそうなくらい、彼は真っ赤になる。 ちょっと可愛い・・・かも。 「ダメ?」 「いや、ダメってことは・・・ないんですけど・・・おそろいのパジャマって、なんかオトナな感じが・・・あはは・・・」 「そう? 私は結構可愛いと思うんだけど。それに私は・・・大河くんとおそろいで着たいな」 そう言いながら、今度は私の方から彼の方へ近寄る。 「だって、恥ずかしくてドキドキするのは・・・『おあいこ』だもん・・・ね、大河くん?」 「わわわっ!?」 照れ隠しに、彼の頬を軽く左右につまむ。 不意をつかれたのか、彼は一瞬焦りの表情を見せたが、その後すぐに眉を顰めて少し拗ねた口調で話し始めた。 「あの・・・なんか、思いっきり子供扱いされちゃってる気がするんですけど・・・」 「そう? だって大河くん・・・顔真っ赤でドギマギしてて可愛いんだもの・・・ふふっ」 「もう・・・心が追いつかないですよ・・・ラチェットさんがドキドキするようなことばっかり言うから・・・」 「ホント? 嬉しい・・・私のことちゃんと意識してくれてるのね」 すると彼は、何かを決したかのようにキッと鋭い真剣な眼差しに変わり、私の両手首をがっしりと掴んだ・・・。 「ぼ、ぼくだって、男なんですからねっ! そんなことばっかり言うと・・・」 「・・・どうなるの?」 ・・・と私が聞き返すと、最初のうちはギリギリと決意を噛み締めていたようだが、しばらくするとガックリと項垂れ、 彼は大きなため息を吐いた。 「くっ・・・はぁ〜、ダメだ・・・ラチェットさん、なんでこういう時に限って無防備な顔するんですかぁ・・・」 「なんで・・・って、え?」 「もう・・・負けました。パジャマ、買って帰りましょう? おそろいの」 そう言って彼は先に立ち上がり、続けて私の手を引いて立ち上がらせてくれた。 そしてそのまま、脱げてしまっていた片方の靴をようやく履き直す。 ・・・いや、彼が履かせてくれた。 「あ・・・ありがとう・・・」 彼の紳士的な行動に少しドキドキしつつ・・・やっとのことでフィッティングルームから出る。 あれから・・・どれくらいの時間が経っていたのだろう。 なんとなく、「まだ居たのか」と言わんばかりの店主の痛い視線を感じた気がした。 「あはは・・・そ、それじゃ早速、色を選び直しましょうか、ラチェットさん」 「えぇ、そうね」 そうして私たちは、じっくりとおそろいのパジャマを選んだ。 いつか・・・このパジャマを一緒に着られる日が来るといいな・・・なんて思いながら。 おわり
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