「ばか」

「・・・こんばんわ、副司令」

 彼はどこからともなく現れて言った。
 ついさっきまで、人の気配など全然感じられなかったというのに。

「あら・・・加山くん、今日はずいぶんと来るのが早いのねぇ。ま、いいわ・・・その辺に座って。お茶を入れるわね」

 そう言ってかえでがちょっと目を離したスキに、加山はベッドに顔をうずめた。

「はぁ・・・いい香り・・・かえでさんの匂いだ・・・」

 と、加山が快感に浸っている最中に、かえでは小さなやかんなどを手にして戻って来る。

「なぁにやってるのよ! ・・・もう、しょうがないんだから・・・」

 あきれた表情で微笑み、手にしていた小型コンロに火を灯した。
 なんとも言い返せない表情で、加山は無言のまま自分のネクタイをゆるめる。
 かえではかえでで、初めに加山から手渡された資料に目を通している。

「言っておくけれど、これは重要な仕事なの。終わるまで、あなたはそこでおとなしく座ってなさい」
「あぅ・・・エサを前にして『待て』と言われている犬と同じだなぁ・・・ワンワン」

 トホホ〜・・・と、ベッドのシーツにのの字を書きながら、残念そうに加山は言う。
 しかし、すぐにサッと立ち上がって・・・

「さてと・・・夜も更けてきたことだし、よいこはそろそろおやすみタイム・・・」

 横目でかえでを見つつ、ぽつりとつぶやく。
 もちろんかえでは見て見ぬフリ聞かぬフリ。

「・・・襲っちゃおうかなぁ〜・・・」

 かえではさらに無視。
 そんなかえでの態度に、加山は・・・

「・・・いいんですねぇ〜? 襲いますよー・・・それじゃ行きま・・・がふっ」

 そう言いかけた時、加山の顔面に思いっきりクッションが飛んでくる。

「あぁ・・・もう! わかったわよ! あなたは私に何をして欲しいの!?」

 いいかげん加山の行動に気が散ってしまい、かえでは加山の方へと歩み寄る。
 かえでの発言に、加山は急に表情が明るくなった。

「えっ!? いいんですか!? えっとですね・・・俺の希望としては添い寝なんかが・・・」
「・・・はぁ? そ、添い寝・・・ねぇ・・・」
「あぁ、もう、あとは成り行きですよ・・・なんちゃって」

 そしてそこには、押し倒す男と押し倒される女がいた。

「加山くんの・・・ばか・・・」


おわり